中小企業のデジタルマーケティング
中小企業のデジタルマーケティング
デジタルマーケティングに取り組もうと考えているBtoB企業(法人向けに製品・サービスを提供する企業)の経営者や営業・マーケティング担当者の方々に、基本となる考え方と取組内容についてお伝えします。
ここ数年、BtoB中小企業においてデジタルマーケティングに取り組んでいこうという機運が高まってきています。以前からオンライン活用に積極的に取り組んでいる企業はそうでない企業よりも収益力が高いという調査報告が、公的・民間の様々な機関から出されていました。さらに昨今のコロナ禍の影響により、展示会やセミナー、テレアポなどのオフラインの顧客接点が今までのようには使えなくなってきている現状も大いに影響しています。
こうした環境下において、各企業は経営者が自ら先頭に立ったり、担当者を任命したりとオンライン活用を強化しようとしています。しかし、いざ取り掛かろうとすると、「何から始めればいいのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実際、東京都中小企業振興公社を始め、公的機関の専門家として企業への助言を行っている私の元へも「何をやれば良いのか?」という相談や、例えば「Webサイトをリニューアルしたい」「SNSで情報発信したい」等、やりたいことは決まっているのですが、「どのように進めたら良いのか?」といった相談が寄せられることが多いです。
「何から手を付ければいいのだろうか?」「Webサイトをリニューアルすれば効果が出るのだろうか?」という悩みを持つのも当然のことかと思います。WebサイトやLP(ランディングページ:申し込みや問い合わせ等のアクションを誘導するために、製品・サービスの紹介を1ページでまとめたWebページのことで、Web広告と組み合わせて運用する)、ブログやSNS、SEO対策やWeb広告、メルマガ配信にMAツール(マーケティングオートメーション・ツール:顧客情報の管理や見込み顧客を育成するための手順を効率化するソフトウェア)等々、デジタルマーケティングにはいくつもの施策があります。では、これらの施策を活用して成功するとは、どのような状態になることでしょうか。
BtoBの取引では、Web上で成約まで完結することは少なく、顧客側は、営業担当者と商談してから購買を決定することが一般的です。そのためデジタルマーケティングで成功するには、オンラインで獲得した見込み顧客を、商談しやすい状態にして営業担当者に渡すことが重要になります。よって、購買プロセスにおける検討期間が長いBtoB製品・サービスのデジタルマーケティングを推進するにあたり、①リードジェネレーション(自社の製品・サービスに興味を持つ見込み顧客の情報を獲得すること)だけでなく、②リードナーチャリング(獲得した見込み顧客の購買意欲を高め、将来的な商談化につなげていくこと)という2つの手順が肝心になります。ここでは、①リードジェネレーションを「集客面」、②リードナーチャリングを「商談獲得面」として解説します。
これまで接点のなかった見込み顧客を自社のWebサイトに流入させるには、GoogleやYahoo!などの検索結果の画面で自社のWebサイトが上位表示されることが必要になります。そのための施策がSEO対策であり、リスティング広告(検索連動型広告)です。SEO対策が奏功して検索結果の1ページ目に表示されるようになったり、リスティング広告の出稿により自然検索の表示よりも上位に自社のWebサイトの情報が表示されたりするようになると、流入数が増えるようになります。しかし、目的は単に流入数を増やすことではなく、商談化につながる見込み顧客を流入させることである点に注意してください。またBtoB製品・サービスを検索している顧客は、情報収集をしている段階の場合もあれば、現在利用している製品・サービスに不満があり代替品を探しているという段階の場合もあります。そのため、Webサイトにはそれぞれの段階にある顧客の欲求を満たすコンテンツ(記事や動画等)を掲載することが必要になります。さらに自社製品・サービスの情報を提供するだけでなく、ダウンロード資料や問合せフォームを設置して顧客情報を収集できる仕掛けを組み込んでおくことが次のステップに進むために重要です。実際に私の支援先でも、Webサイトをリニューアルして導入事例を随時更新できる作りに改修した際に、これまで手付かずであったSEO対策の実施と顧客情報収集の仕掛けを組み込んだことにより、Webサイトへの流入増加、問合せの獲得、商談化という好循環が生まれている例があります。
ただし、そもそも検索されることが少ない製品・サービスもあります。その場合、自然検索や検索連動型広告からの流入があまり期待できないため、これまでのようなリアル開催の展示会やオンライン展示会等への出展、業界誌・紙や業界サイトへの広告出稿により、新規の見込み顧客との接点を継続的に構築する取組みも必要となってきます。
展示会やセミナーなどで接点のできた見込み客に対して一斉に電話をかけ、やっと訪問できたとしても、「まさに購買検討のタイミングだった」というケースはあまり多くないというのが実情かと思いますが、Webサイトを通じて獲得した見込み顧客も状況は同様です。そこで、購買プロセスにおける検討期間が長いBtoB製品・サービスのデジタルマーケティングの推進においては、「リードナーチャリング」(獲得した見込み顧客の購買意欲を高め、将来的な商談化につなげていくこと)が重要になってきます。購買意欲を高め、商談化につなげていくためには、Webサイトを通じた情報交流が必要であり、接点のできた見込み客をWebサイトへ流入させる施策がメルマガ等の定期的なメール配信です。ただし、見込み顧客がWebサイトを再訪してくれたとしても以前と同じ情報しか掲載されていないと、購買意欲を高めるという目的を達成できず、逆に興味も薄れていってしまいます。そこで自社のWebサイトを継続的に再訪してもらうためには、新情報の提供が必要となり、コンテンツ(記事、動画等)やダウンロード資料を継続的に拡充することが重要になります。
リアルの営業活動において「短期的には見込みなし」と判断した場合でも、その後もフォロー営業を実施し、中期的に案件獲得を目指すのが理想かもしれません。しかし営業リソースの面から対応は難しいことが多いと思われます。この問題は、見込み顧客へのメール配信による定期的な流入促進と、Webサイトのコンテンツ拡充による継続的な情報提供により解決できる可能性があります。ここで活用できるのが、メール配信システムやMAツールです。利用するシステム/ツールにより機能は異なりますが、配信リストの管理やメール作成・配信の効率化だけでなく、メール配信後の顧客の行動を可視化することができます。具体的には、メールの効果測定(開封、クリック)、Webサイトへ流入後の行動(閲覧ページ、滞在時間、訪問回数…)等のデータを収集・蓄積でき、「メールのリンクを毎回クリックしてWebサイトへ流入してくれる顧客」や「これまで反応がなかったのに急にWebサイトを訪問するようになった顧客」、あるいは「特定の製品・サービス案内のメールからWebサイトを訪問してくれる顧客」などが分かるようになります。こういったデータを活用することで、「購買検討のタイミング」に入った見込み客を見定めて、商談獲得に向けたアプローチを実施することができます。
ここまで、デジタルマーケティングの基本となる考え方と取組内容について、①リードジェネレーション(自社の製品・サービスに興味を持つ見込み顧客の情報を獲得すること):「集客面」と、②リードナーチャリング(獲得した見込み顧客の購買意欲を高め、将来的な商談化につなげていくこと):「商談獲得面」の両方が大事であると述べてきました。この2つの観点から、自社では「何から」取り組めばいいのかについて考えていただくことをおすすめします。例えば、自社のWebサイトではまだ製品カタログのような情報提供しか行っていないようであれば、見込み顧客の悩み・欲求を解決するコンテンツ(導入事例や、顧客の声等)を掲載したり、それらを継続的に拡充できるようにしたりすることがまずは必要になってきます。可能であればコンテンツの拡充による情報発信と同時に、Webサイトには掲載していない情報をダウンロード資料として用意し、ダウンロードする際に見込み客の情報を収集できる取組みもあわせて行っていただきたいです。このようにWebサイト側の準備が整ったうえで、Web広告を活用したり、顧客リストにメールを配信したりして、流入促進を図ると成果につながりやすいと考えます。
このコラムは、東京都中小企業振興公社の依頼を受けて作成した記事を引用しています(2022/6/16公開)